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社員が成長する既存の人事評価制度の運用法

新型コロナウイルスの影響で、徐々にリモートワークが増えてきました。
お付き合いのある会社では、働き方も変化する中、この機会にと働き方に合わせた人事評価制度の見直しを検討されるケースも増えてきています。
とは言え、大幅に変更するには工数も費用もかかります。既存の人事評価制度が上手く機能していないのに、制度を刷新したからと言って上手く機能するものかどうかの不安もあり、どうしたら良いものか、そんな相談が増えてきました。
ここでは、既存の人事評価制度を最大限に機能させるための運用法について触れていきましょう。

1.既存の人事評価制度運用上の悩み

経営者や人事担当者の皆様とお話をしていると、「人事評価制度が機能していない!」って言う声をよく聞きます。
その場で状況を聞いて機能させるためのヒントと選択肢を伝えますが、あまりにも簡単に解決できて、結構驚かれたり喜ばれたりしています。
よく考えてみると、人事評価制度の運用法ってあまり教えてくれる方がいないんですよね。

具体的な悩み(経営者・管理者の声)

ちなみに、既存の人事評価制度運用にどんな悩みや困り事があるかと言うと、こんな声が多いです。

 ・評価に膨大な時間がかかり、評価の負荷が大きい
 ・社員の評判が悪く、評価制度への不平・不満が多い
 ・評価に納得しない社員がいて、やる気をなくす社員がいる
 ・評価のフィードバックがその後の仕事に活かされていない
 ・評価制度が社員の成長に繋がっていない
 ・社員が意欲的な目標を設定してくれない
 ・言われた事はやるが、自発的に働く社員が育たない

これでは、経営者や管理者の皆様がぼやきたくなるのも納得です。
年1・2回の評価時期が近づくにつれて、気持ちが沈んでしまうのも頷けます。
評価者の皆様、本当にご愁傷様です。

悩みの原因は?

人事評価制度に限らず、社内制度が機能していないと制度そのものが悪いから、と考えがちです。

でも、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。
車の運転が下手な人は、皆、品質・性能の悪い車に乗っているからでしょうか?

そうではないですよね。
確かに車の品質・性能が良くなれば、多少は運転が上手くなったような気がします。
でも、同じ車に乗っている運転技術のあるドライバーと比較すると、下手な事には変わりありません。

そうです。
上手い運転は、車というハードと運転技術というソフトの2つが揃うことが大事ですよね。
人事評価制度に限らず、会社運営においては、制度を運用するソフトの部分が実はとても大事になります。
ソフトが弱ければ、いくら時間とお金を投資しても、一向に良くなる事はありません。

悩み解消の方向性

「それなりに試行錯誤して作った人事評価制度が機能していない」という状況であれば、制度運用のためのソフトが未熟なだけではないか? と疑ってかかるべきでしょう。

実は、自社に合いそうだからと、既存の評価表を流用した場合も同様です。
100%とまではいきませんが、少なくとも30%程度は良い部分もありますので、それを動かすソフト部分が充実していれば、社員からの評価はそれ程悪くはならず、プラスの効果を発揮します。

そのためには、今使用している評価制度(評価項目)が、どの様な考え方で制度設計されているか? を理解する事が必要です。

ここで言う評価制度を動かすソフトとは、関わる人の考え方と制度運用の仕組みで、目に見えない部分です。
経営者や管理者の皆様には、「そこをちょっと工夫して変えるだけで、社員からの反応もグッと変わって、社員の成長、しいては飛躍的な会社成長・発展に繋げる事が出来ますよ」と伝えています。

原因解決の優先順位

このソフト部分が原因かどうか、簡単に見分ける方法としては、他の制度や報連相が上手くいっているかどうか、で判断できます。
つまり、原因の優先順位の問題です。
必ず原因は複数あるものですが、解決の優先順位は制度そのものか、運営ソフトの問題か、の判断です。

悩みを抱えている経営者や管理者の皆様にこの様な質問をすると、皆さん、直ぐに返事が返ってきます。
とても分かり易いですよね。
人事評価制度は社員の給与・賞与、昇進・昇格に直結するため、どうしても社員の不満が溜まりやすいもの。
他の制度は不満があっても表面化しづらいけども、評価制度は矢面に立ちやすいものです。

でも想像してみて下さい。
一番社員にとって利害のある評価制度が上手く機能し始めたとすれば、その後社内にどの様な良い影響が拡がっていくかを...
しかも、既存の人事評価制度でそれが実現できるとすれば...

人事評価制度が機能していない原因のソフト部分を解消すると、相乗効果として、社内の雰囲気がガラッと変わり、他の業績向上のための施策までもが想像以上に機能し始めます。

2.最も陥りやすい盲点と対処法

人事評価制度の運用場面では、制度設計者の意図通りに進まない事が多々発生します。
当社が設計していない人事評価制度の評価者研修を担当させていただく場面がありますが、
盲点とも言える点をクリアしていくだけで、評価者研修とその後の現場運営がスムーズに進みます。

旧制度や新制度の欠点や不満を準備して意気込んで評価者研修に参加される社員もいらっしゃるのですが、そういう方ほど研修途中から率先して前向きな姿勢に変わります。
当然の事ですが、そういう方ほど現場に戻ってから活躍されています。
部下との意思疎通の質やマネジメントが劇的に変わり、部下の成長や目標達成に向けた模範的行動を示してくれる報告を受ける事は嬉しいものです。

最も陥りやすい盲点は「能力」の定義

人事評価制度で使われる用語には、一般的な意味と少しニュアンスの異なる言葉があります。

その中でも、「能力」という言葉は、社員によって、場面によって捉え方が変わってきます。
能力の定義は人事評価制度設計の考え方次第で正解・不正解はありませんが、曖昧だと面倒な事になります。例えば、知識・技術・経験値がある保有能力、保有能力を成果にまで結びつけた発揮能力、潜在能力と言った分け方があり、認識が異なる人同士が話し合うと絶対に会話が噛み合いません。

人事制度は職能資格制度等の等級制度で運用されている事が多く、給与は職能=職務遂行能力によって等級号棒を決定する事で決まります。賞与査定は業績・成果によって評価するものの、給与査定の元となる能力評価は、目に見える業績・成果・行動から目に見えない能力を評価する事から、認識ギャップが発生しやすくなります。

能力ではなく行動で評価する制度もありますが、現実的には部下を四六時中観察できるわけではありません。また、成果以外は評価しない制度にしてしまうと、社員は成果につながらない仕事を避けるようになってしまいます。
会社としても、適切な人材配置・登用の面からも社員の能力を把握しておくことが望ましく、特に管理職への登用場面では不可欠です。

被評価者の視点

評価される社員(被評価者)は、無意識のうちに能力を保有能力と解釈しています。
「〇〇の能力が弱い」と指摘されれば反発したくなるもので、「どの行動を持って判断したのか」「それを指導するのはあなた(上司)だろう、どうして期中に指導しなかった」と言い返したくなります。実際に言われる方もいるので、その様な部下と接するとマネジメント力を鍛えられるメリットはありますが、苦労はします。

社員の立場に立つと、「やれば出来るけどやる場面がなかった」「本来なら出来たはずだけれども、○○のために上手くいかなかった」と反論したくなる気持ちも良く理解できます。
これが、「能力」を保有能力と認識している被評価者を評価する時に発生する問題点です。

潜在能力と認識している被評価者と面談すると更に苦労します。
いくら面談を重ねても、指導する上長が悪いという結論に導こうとしますので、話し合いは平行線です。

能力の定義を「発揮能力」にすると・・・

そもそも保有能力とは誰も知り得ないものであり、状態は常に変化し続けています。
昨日まで出来たけれども、今日はできなくなっていたという事もあるでしょう。たまたま上手くいって能力を認められたものの、次は上手くいかなかった、という事もあり得ます。
潜在能力も同様ですが、潜在・保有能力に意識が向いている人と話し合うと、被評価者の資質に言及している様な錯覚を起こしがちなのです。例えば、「論理的思考」が弱いと言われると、内心穏やかでない人も多いことでしょう。そうではなく、隠れた能力を磨き、発揮させることに意識を向けさせます。

従って、能力の定義が曖昧な制度の運用には、発揮された能力のみを評価することに統一する事を推奨しています。いくら潜在・保有能力があっても、業務に反映されて結果が伴っていなければ、会社にとって ない と同じ、とするのです。

ちなみに、評価者研修の冒頭に、会社は業績によって評価される以上、業績に反映されなかった潜在・保有能力は評価対象外です、と説明すると、皆さん納得されます。今迄ここで反論をする方はいらっしゃいませんでした。

発揮能力を活用した面談

被評価者に「該当する評価項目をどの様に発揮したか?」を質問し、その回答に対処することで納得を得ることが出来ます。部下の全ての行動を観察する必要はなく、ポイントを押さえておくことで事足ります。
ここでの対処とは、評価の基準を示し、職場の誰もが納得する能力の発揮をするために今後どの様に行動すれば良いか、上長としてどの様にサポートしていけば能力を発揮できるかに焦点を当てた面談をすることです。
被評価者が行動していたと主張しても、有言実行でなければいけない、周囲に伝わっていなければ発揮されていたとは言えない、との評価判断基準を伝えます。但し、それだけでは突き放すことになりますので、育成の観点で今後のサポートについて話し合い、仕事の進め方についての指導に力点を置くような面談にします。すると、日常のマネジメントとの連携が生まれる仕掛けができたことにもなります。

後は、評価者が約束したことを日常のマネジメントに反映して実践していくだけです。今迄よりも部下とのコミュニケーションは良好化し、報連相も活発になります。

部下のやる気を高める動機づけ

潜在能力、保有能力、発揮能力とは抽象概念で、一般的には区別して使用することはありません。
しかし、評価や部下面談の時にはこれらを意識して接することで、円滑なコミュニケーションを図ることができます。

例えば評価項目の中に「論理的思考」があった場合、上長から「論理的思考の潜在能力は高いと感じる場面がある。但し、君はまだ経験が浅く、情報量も足りていないため、業務全体を俯瞰した論理的な提案に至っていない。失敗を恐れず、もっと新しい仕事にチャレンジしていけば、論理的思考に必要な点の情報をもっと沢山蓄積できて、能力も発揮できるようになると思っている。私もそうだった。その為のサポートは責任を持ってやっていくので、どんどんチャレンジして欲しい!」と言われたら、どの様な印象を持たれるでしょうか? ネガティブな印象ではなく、ポジティブな印象を受けると思います。

課題解決による部下の動機づけ

保有能力を成果に結びつけて発揮できない(明らかに力がある)場合は、環境ややる気、現場の経験不足が影響しています。例えば、変化ができずに結果が悪かった時に、「残念だが、今回の環境変化には適応しきれなかったな。〇〇をするように助言したが、今迄のやり方を貫き通した点は信念の強さとしては評価している。但し、今のままでは結果は変わらないだろう。いくら君の〇〇の能力が高くても、状況に合わせていく方法を習得しないと、成果を出し続けることは難しいと思う。これからどの様に変えていきたいと思っているのか、考えがあれば教えて欲しい。精一杯、応援していきたいと思っている。」と声をかけられたら、素直に受け入れられるのではないでしょうか?

潜在・保有能力という言葉を使うと、発揮できない原因は外部にある事を示唆することになり、本人の資質を下げる事はありません。外部に適応するために努力していこう、という流れを創り出し、結果、本人に変化を促す動機づけも行うことができます。企業は環境適応業と言われますが、人も同様なのです。

ポジティブな面談へ

お気付きと思いますが、この様なコミュニケーションの流れでは、評価者と被評価者が評価の違いを乗り越えて、成長に向けた面談ができるようになっています。

期待通りの成長をしていなかったり、評価によって部下のモチベーションが下がっていたりするようであれば、是非活用してみてください。必ずしも潜在・保有能力という言葉を使う必要はなく、別の表現でも構いません。能力は発揮されてこそ意味がある、という意図を持って接すると、面談の雰囲気がガラッとポジティブになります。

3.評価基準の変更による運用法

人事評価で評価者と被評価者との間で最も意見が割れるのが評価点数です。
5段階評価が最も多いですが、中心化傾向を排除するために4段階評価にしたり、評価基準を細分化した7段階評価、両方の意図を組み合わせた6段階評価もあります。
ここでは、一番多い5段階評価の評価基準をちょっと工夫する、軌道修正を加えることで、評価者が評価しやすくなり、被評価者の納得を得て動機づけが可能となる方法をご紹介します。

評価点算出対象の明確化

いずれの評価項目であっても、評価点算出対象は、評価期間中の全期間、平均値、トップ(一番出来ていた能力発揮場面)、ボトム(一番出来ていなかった能力発揮場面)のいずれか? という点を決めておきましょう。
つまり、例えば、
期首当初は出来ていなかったが、期中・期末前には出来ていたケースをどの様に評価するか? 期首当初は出来ていたが、期中・期末前には出来ていなかったケースはどの様に評価するか? 評価期間中に出来ていた、出来ていなかったにバラツキがあり、安定していなかったらどの様に評価するか?
というケースの評価基準を事前に決めておきましょう、という事です。

評価者によって評価点算出対象が異なっていては、公平な評価とは言えず、被評価者の不満が高まり、甘辛調整が大変な作業になります。何よりも、ここで評価者と被評価者の意見のすれ違いが生じていては、評価プロセスはまさに苦痛以外の何物でもなく、絶対に実を結びません。

会社の評価に対する考え方で決定する

社員の育成、成長重視の考え方であれば、成長して安定して出来るようになり、今後も同様の能力発揮を見込めると判断できれば、たとえ期末前に出来るようになった事であっても評価します。成長によるトップ状態を重視した評価です。来期の給与に影響する評価なので、合理的な考え方でもあり、当社も推奨しています。但し、翌年出来ていなければ評価点は下がり、元に戻ります。

全期間を通して発揮できていた事を重視する考え方もあります。この場合、できていない許容範囲を決めておくことが望ましいでしょう。なぜなら、これこそが減点主義評価であり、1回でも出来ていなかったケースがあれば評価を下げることになり、社員を萎縮させて積極性を奪ってしまいます。

そこで、平均値で評価しようという考えが生まれてきます。しかし、定性評価項目を数値化して平均値を取るとなると、困難を極めます。評価者は被評価者の全ての行動を観察できているわけではありませんので、避けた方が無難です。

一番出来ていなかった能力発揮場面があれば、育成の観点で助言してあげましょう。この場面で発揮できてこそ、上位の評価点で評価することになる事、解決方法を提示してサポートしてあげましょう。

評価基準に成果主義と行動評価を組み合わせる

5段階評価の場合、多少の表現を変えているケースもあるものの、基本は、
5:非常に良い、4:良い、3:普通、2:悪い、1:非常に悪い
といった評価基準が多いです。
中には、上記の表現を変えたり、評価項目毎に具体的に詳しく評価基準を作成されている会社もあり、当社もそのお手伝いをしてきました。

ここでは、全ての評価項目基準が同じ制度の場合、ここを軌道修正するだけで、評価がかなり楽になり、納得度の高い評価基準にする方法です。

評価基準が全て同じ能力評価の5段階評価に、成果主義と行動評価の視点を評価基準に組み入れます。
例えば、
評価1:全く発揮できていない
評価2:期待を下回る発揮度合いで、成果に貢献できなかった
評価3:期待に沿った発揮度合いであり、成果に結びつく貢献ができた
評価4:期待を超える発揮度合いであり、期待以上の成果に結びついた
評価5:過去の固定観念を打ち破って新たな価値を創出し、模範的な行動を示した

成果主義と行動評価を組み合わせた具体例とメリット

能力評価でよく使われる「企画力」で見てみましょう。尚、「企画力」という評価項目そのものの善し悪しは判断が分かれるところで、定義次第という事で推奨しているわけではありません。

評価1は、そもそも企画に関与する立場にない、企画しなかった、という評価判断です。
評価2は、企画には関与しているが、成果に結びつく貢献には至らず、現在修行中!っといった判断基準で、独り立ちには至っていません。
評価3は、企画力の独り立ちに該当し、成果に結びつける事ができています。
評価4は、企画力で目覚ましい成果に貢献することができています。
評価5は、過去の繰り返しとは異なる企画力の発揮により、今後の業績向上に良い影響を与えていく評価です。

例えば、評価者の評価点2に対して被評価者が評価点3を主張してきた場合、どの様な点が評価点3に該当する企画力の発揮だと考えているのか、どの様な成果に結びついたのかを質問することで事足ります。後は、評価点3に向けての助言を行い、サポートしていく姿勢を示しましょう。
この様に表現を変えることで、評価基準が成果と行動に結びつけやすくなり、評価面談も楽になります。

小数点の活用

被評価者にとっては、半期、全期の評価時に同じ点数という事は、全く成長していないという印象を持ってしまいます。半年間、1年間頑張ってきたのに全く評価が上がらないのはおかしい、少しは成長している、分かって欲しいという気持ちはとてもよく分かります。

そこで、評価点数そのものは整数(自然数)で行うものの、育成目的として小数点を活用するのも有効な手段です。
例えば、昨年は2.5で、評価点数は2だった。今年は成長して2.8にまで評価しているが、3には至らない、足りない点はこうだ、といった指導・助言が可能となります。

被評価者の立場に立つと、同じ評価点2であっても、中身の違う評価であり、評価点3を目指す上で動機づけになります。
但し、四捨五入による評価はない、達成・到達してこそ上の評価になる評価基準が前提です。

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